2021/03/25 14:04
“成宮咲来さんの作品を、多くの人に届けたい”
2014年、一つの商品化プロジェクトが立ち上がりました。
春の風のような強い想いが多くの人々を巻き込んで、「さくらハート」は誕生しました。
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工房集に所属する作家
成宮咲来さん
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▼作品を紹介しています
http://kobo-syu.com/artists/%e6%88%90%e5%ae%ae%e5%92%b2%e6%9d%a5/
「さくらハート」
作家・成宮咲来さんによる銅線を使った作品を樹脂の中に閉じ込めて仕上げた、アクセサリーブランドです。
工房集のショップでも様々なアイテムを紹介しています。
咲来さんの作品は、髪の毛ほど細いカラフルな銅線を指先で丸めたもの。やさしく丸めているので、金属の質感は薄れ、まるで綿のような軽さがあります。使う色によって、花のように可憐なものや、銀河のような奥行きを感じるものも。見る角度、見る人によって印象が違って見えるところも、作品の魅力の一つです。
意思疎通の難しさや体を意図的に動かすことができないなど、重い障害のある咲来さん。
障害から指を手のひらにこするような「手もみ行動」をすることが多く、当初はその手の動きを考慮した活動に取り組んできました。長く続けてきたのは、和紙作りの原料にするため牛乳パックのビニールをはぎ取る仕事。1枚のパックをはぐ間、気持ちをずっと集中させることが難しかったため、あとほんの少し力を入れたらはげる状態にまでスタッフが行い、残りを一緒にやっていました。
「本人の仕事として、本当にこれでいいのかという葛藤があった」と支援員の山内さんは話します。
じっと座っていることが苦手な咲来さんに何ができるのか、スタッフ達はもう一度考え、悩んでいるなかで、たまたま彼女がちぎってもんでいた和紙がとても柔らかなものになっていました。「この指で何かできないか」と試行錯誤が続けていたある日、ふと見つけた色つきの銅線を何本か渡してみると、独特な丸め方をしたあとにふんわりとした塊を作り上げます。「これだ!」と思い、銅線の太さや色合いを検証するなど、咲来さんの作品作りがスタートしました。
朝になると、まずスタッフが和紙で作ったカップに数種類の銅線を入れます。銅線を掴んだ咲来さんは部屋の中をぐるぐると歩き回り、ときどきカラフルな絵を描く仲間のそばで立ち止まります。絵を見たり、そっぽを向いたりしながら、しばしその場所にとどまると、また別の場所へ歩きだします。
「作品がいつ完成するかは、スタッフも分からないんですよ」と支援員の志村さん。出来上がった咲来さんのタイミングでぱっと手を開き、丸められた塊はぽとんと床に落ちます。「スタッフや仲間が見つけて拾い上げますが、運悪く踏んでつぶしてしまうこともあるんですよ」と志村さんは笑いながら教えてくれました。
「咲来さんの気持ちが込められた作品だから、『さくらハート』はどうか」
商品化の打ち合わせでそんな話が出たとき、ちょうど出来上がった作品がまさにハートの形をしていたそう。「嘘みたいだけど、奇跡みたいな本当の話なの」と支援員・山内さん。咲来さんと寄り添う人たちの中で起きた小さな奇跡。そこから「さくらハート」の商品化は進み、2015年にはデザイナーによるパッケージ開発や、グッズのブランディングを専門に行うcon*tioに協力を仰ぎ、リニューアルも行いました。障害のある人の作品としてではなく、純粋に素敵な商品として手にとってもらいたい。そんな支援スタッフの想いを汲んだ見せ方を模索しました。
咲来さんが30歳のときにできた「さくらハート」は、今年で7回目の春を迎えます。
暗いニュースばかりが流れる昨今ですが、咲来さんの“指先からこぼれ落ちる気持ちのカケラ”は、今日も人々を温かく包み込んでいます。